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どの」

「ん、なあに、ゆきむら?」


どちらも互いに舌っ足らずな言葉で相手を呼ぶ。
今はどちらも同じように幼く、また同じように泥だらけだ。
いつもとの違いは、走り回って泥んこになっているか、砂場でお城を作って泥んこになっているかだった。
今日は後者であったが、それでも泥んこ具合では走り回る日に負けていない。



「きょうは、だいじなはなしがあるのだ」



急に改まった幸村に、理由が見えない私はただただきょとんとしていた。
幸村は幸村で、改まりすぎて砂場の真ん中で正座をしてしまっている。


「どうしたのゆきむら。へんだよ」

「へ、へんでござるか……!? いや、そうではなく」



灰色の砂を体中にまぶしたままの姿でえへんえへん、とわざとらしく咳払いをして見せた幸村は、
何故だかきゅっ、と眉根を寄せた。よく見れば大きな目にうっすらと涙がにじんでいる。
それに気が付いたは、わけもわからないまま慌てた。


「ど、どうしたのゆきむら! どっかいたいの? それともわたしなにかした!?」

「ちっ、ちがうでござる! そうではなく、その……その、」

「ゆきむら?」


幸村は呼びかけてもしばらくは渋っていたが、やがて観念したのか重々しく口を開いた。


「それがし、ひっこすのでござる……」

「え、それって、とおく?」

「ものすごく、とおくでござる」


会えないほど遠く、と言われて今さらながらにショックを受けた。
もう幸村と、会えなくなるなんて。


「そんなの、やだ!」

「それがしもいやでござる! しかし、のこるわけにもいかぬでござる……」

「もうずっと、あえないの?」


私が涙目になりながらそう尋ねると、幸村は俯いていた顔をキッと上げた。


「それゆえ、それがし、どのをよめごにするでござる!」

「……およめさん? ゆきむらの?」

「そうでござる! いまはまだむりでござるが、いつか、きっときっと。
かならずむかえにいくでござる! だからそれまでこのゆきむらをまっていてほしいでござる!」


砂にぬれながらもとてもきらきらした目でこちらを見つめてくる幸村。
その眼に浮かぶのは、期待とも喜びともつかない。


「……んー、いや」


それを、少し考えたのちに否定する私。


「な、なにゆえ!?」

「だって、ゆきむら、」



当然のようにうろたえる幸村に、私は何でもないという風に笑顔で言い放った。