「、いるか」
「……ここに」
まだ夜も明けきっていない早い時間に、我が主に呼びかけられる。
いつも主の真上、天井裏に潜んでいるため、現れるのにそう時間はかからない。
しかし、夜明けからが私の警護の当番だったが、他の者だった場合はどうしていただろうか。
いつもいつも私が傍についているわけではないのだ。
もちろん、毛利家に仕える忍が皆一同に””という名を持っているわけでもない。
もしかして、気配を……名を、覚えてくれているのだろうか。私のような、草の者の名まで。
「いかがなさいましたか」
「日輪を見にゆくぞ」
「……御意」
主は、日輪を好み、それはそれは厚く信仰しておられる。
毎朝早くに起き出して朝日を拝むほどに。
「おお……日輪よ……」
「……」
私は私で朝一番に浴びる日光に浸りながら、静かに目を閉じている。
日光浴とは気持の良いものであるし、何よりいつも厳しく鋭い表情しかなさらない主の、
一番の楽しみであり癒しであるこの時間を邪魔したくない。
「」
「はい」
「じきに、戦が始まる。この瀬戸海を隔て、睨み合いを続けていた長曾我部とのだ」
「存じております」
主は一旦言葉を切って今まで礼拝していた日輪に背を向けてまで、こちらを向いてくださった。
目を灼くような朝日に照らされ、黒い影を背負ってもなお、主は凛としていらっしゃった。
「、どこまでも我に付いて来い」
「もちろんにございます」
どうしたのだろうか、いつもの主に相応しくない、ともすれば弱気ともとれる発言である。
「言われずとも、最期まで。……いえ、死地の先、黄泉までも共に」
そういった後にふと目を上げれば。
満足そうに微笑をたたえる主の、柔らかな瞳とかち合った。