「元就様」 「……か」
私の主は、うつくしいひとだ。 とても高貴なお方で、忍である私でさえ束の間見とれてしまう程。 「長曾我部軍の動きを報告に参りました」 「申せ」
言葉数が少ないのは、主が朝早くに起き出して日輪を拝むために、早めに就寝なさるからだ。 「長曾我部軍に、何やら不穏な動きありとのことでしたが、」 「……奴がついに動きおったか」 「……いえ」
主は私が予想とは違う返答をしたからか、鋭かった瞳をわずかに見開いて私を見つめている。
主は、様々な方たちから詭計智将、やら冷酷で兵を駒としか見ていない、 「長曾我部軍は、どうやら浅井軍に奇襲をかけられ、水軍の船を強奪された模様です」 「……浅井、か? 何故またそのような奴らが……」 「彼らは九州を目指し、進軍していたようです」 「……なるほど、島津の辺りか。では、我らには害無しと見てよいか」 「恐らくは」
流石、智将と呼ばれているだけに、理解がお早いです。 一を聞いて十を知る、とは元就様の為にあるような言葉だと、私は常々思うのです。 「うむ、良い。ご苦労であった。次の任務まで体を休めておくがよい」 「……ありがたきことにございます」
主は、駒である兵を決して粗雑に扱ったりしないのだ。それがたとえ、私のような草の者であっても。 だからこそ私は。 「……僭越ながら、元就様」 「何ぞ」 「元就様も、お早めにお休みくださいませ」 「……努めようぞ」
だからこそ私は、元就様自身を大切にしていただきたいのだ。 |