美しき人




「元就様」

「……か」


私の主は、うつくしいひとだ。 とても高貴なお方で、忍である私でさえ束の間見とれてしまう程。


「長曾我部軍の動きを報告に参りました」

「申せ」


言葉数が少ないのは、主が朝早くに起き出して日輪を拝むために、早めに就寝なさるからだ。
主の切れ長の瞳を束の間閉じて日輪を崇拝するお姿は、我が主ながらお美しい。
深緑の似合う、冷たく怜悧な美貌を日の光にさらし、さながら植物のように力を分けていただいているようです。


「長曾我部軍に、何やら不穏な動きありとのことでしたが、」

「……奴がついに動きおったか」

「……いえ」


主は私が予想とは違う返答をしたからか、鋭かった瞳をわずかに見開いて私を見つめている。 主は、様々な方たちから詭計智将、やら冷酷で兵を駒としか見ていない、
などと評されており、実際もその通りであるのだが、しかしそれだけでないことを私は知っているのだ。 主は、自身をも駒の一つでしかないと考えておられるのだ。


「長曾我部軍は、どうやら浅井軍に奇襲をかけられ、水軍の船を強奪された模様です」

「……浅井、か? 何故またそのような奴らが……」

「彼らは九州を目指し、進軍していたようです」

「……なるほど、島津の辺りか。では、我らには害無しと見てよいか」

「恐らくは」


流石、智将と呼ばれているだけに、理解がお早いです。 一を聞いて十を知る、とは元就様の為にあるような言葉だと、私は常々思うのです。


「うむ、良い。ご苦労であった。次の任務まで体を休めておくがよい」

「……ありがたきことにございます」


主は、駒である兵を決して粗雑に扱ったりしないのだ。それがたとえ、私のような草の者であっても。
だからこそ皆主を慕い、命を賭けてもお守りしようとするのだ。

だからこそ私は。


「……僭越ながら、元就様」

「何ぞ」

「元就様も、お早めにお休みくださいませ」

「……努めようぞ」


だからこそ私は、元就様自身を大切にしていただきたいのだ。