「オイ、起きろ沖田」 ぽいっと紙くずを放り投げながら、ふざけたアイマスク着用で涎を垂らしながら寝入る沖田に声をかける。 「お前、あの爆音の中よく寝てられるな」
寝起きだろうがなんだろうが、とりあえず土方への誹謗・中傷は忘れない沖田に、土方のこめかみがひくりと引きつる。 「天人の館がいくら吹っ飛ぼうが知ったこっちゃねェよ。 にぃ、と口角を持ち上げ、挑発的な表情になったかと思うと、すらりと刀を抜き、ぎらりと獣のように光る土方の瞳孔が開く。 「新撰組の晴れ舞台だぜ。楽しい喧嘩になりそうだ」 「おい、。先に行った山崎のあとを追え。あいつの手に負えそうになくなったら加勢しろ」 「天人との戦において鬼神の如き働きをやってのけ、敵はおろか味方からも恐れられた武神…… 期待に満ちた目で刀を差しだす長髪、ヅラ、こと桂小太郎。 「……銀さんアンタ、攘夷戦争に参加してたんですか」 驚きを隠そうともせず、眼鏡の少年、新八が問う。 「そうだねえ、あんときゃ若かったもんね、みんな」 いきなり天井から逆さにつり下がった少女が現れたのだ、一様の驚きも凄まじかった。 「だっ、誰だァァアンタ! ていうか何で宙づり!? どうやってぶら下がって…」 新たな展開に驚く新八と銀時をよそに、キラキラと多分に期待を込めた瞳で問いかける桂に、きっぱりと断わりを入れておくという少女。
「攘夷の次はそんなことをしていたのか。相変わらず仕事を選ばん忍だな……。 今さっきの会話の流れで、何をどう聞いて解釈すればそういった答えを導き出せるのか。 「とにかく、俺は即戦力になるであろうお前たち二人を捜していた。双方戦が終わるとともに姿を消したのでな。 銀時は鬱陶しそうにがしがしと銀髪を掻きむしりながら言う。 「俺たちの戦はもう終わったんだよ。それをいつまでもネチネチネチネチ、京都の女かお前は!」 その後ももてるもてない談議を始めた三人を、見かねた新八が止めに入る。 「俺たちの戦は終わってなどいない。貴様の中にとてまだ残っていよう銀時…… 国を憂い共に戦った同志たちを奪っていった、幕府に対する怨嗟の念が……」 「……」 銀時は是とも否とも、何も答えない。 「お前とて同じだ、」 まさかここで名指しされるとは思ってもいなくて、本当に間の抜けた声が出た。 「お前は誰より天人を憎んでいたであろう。あの思いはそのように容易く消えるものではないはずだ。 少しのいら立ちを含んだ双方のやり取りに、その場の空気もピンと張り詰める。 「ではなぜ、銀時には付き従っているんだ! だったら俺に付いてくれても構わんだろう!」 蔑むような眼で見てくる二人に、銀時はあわてて弁解をする。 「いや、ほら、あれだよ。貢いでくれるっていうから無碍にするのもあれだし、ありがたく受け取ろうと……」 弁解が弁解にならず、自らを追い詰めてしまった銀時に、桂との言い争いを終えたが助け船を出す。 「いいのよ。だって銀時、渡したお金最低限しか使わないもの」 あんたが家賃に使ってないことぐらい、お登勢さんの怒号を聞いてればわかるって、とひらひら手を振る少女に、はたと気がつく。 「あの、失礼ですが、さんおいくつなんですか?」 脱線しかけた話を、珍しく桂がまとめた。 「いや、その勇気は認めるけどさあ。今ここに警察がいるの、忘れていない?」 ぎょっとする桂をよそに、長く広がった袖で見えなかったが、の袖からチャキッと何かを構える金属音が聞こえた。 「御用改めである! 神妙にしろテロリストども!」 新八がそのことを言及するよりも早く、派手に蹴破られた戸から黒服の男たちが次々に入ってきた。 「しっ……新撰組だァっ!」 焦った桂は支離滅裂なことを言いながら(まあ普段からそうだが)、浪士に指示を出して各々逃走を始める。 「あ、土方さん。早かったねえ」 そう言いながら見せるように再びチャキッと三本の爪を鳴らす。 「話は後だ、お前ら、一人残らず討ち取れェェ!」 「……」 「お前も行けよ!」 「や、私は土方さんの護衛なんで」 「いらねェ、さっさと行け!」 「ふえーい」 渋々、といった様子で離れていったを見て溜め息をつき、土方はそのまま桂と共に逃走する派手な銀髪に狙いを定める。 「たーるいなー……」 どうにも気分の乗らない様子のは、やる気なさげに向かってくる浪士たちをいなす。 「あ、総悟君が」 何やら楽しそうに銀時とやり合っていた土方に向かって、ドS星の王子が黒い笑みを浮かべて近付くのを見てしまった。 「ヅラはいつになっても逃げるのだけは早いんだから」 もうもうと上がる煙の中、怒号を飛ばしている間に、桂たち一行は一つの部屋へと逃げ込んでしまった。 「? そりゃ何の真似だ」 懐から何かを取り出した桂を見て、不思議そうに尋ねた銀時に桂はどうという風もなく答えた。 「時限爆弾だ」 ターミナル爆破の為に用意していたという爆弾を放つ、と容赦のない桂に新八が言い募るも、 「オーイ、出てこーい」 籠ったままなかなか出てこない桂たちに業を煮やした土方は、公然の知となっている繋がりを持ち出してをけしかけた。 「土方さん夕方のドラマの再放送始まっちゃいますぜ」 ドラマの再放送の為に説得を断念した土方は、バズーカの発射準備を促した。 「何やってんだ、止めろォォ!」 襖を蹴破った勢いのまま駆け去る浪士たちを見て唖然とするも、土方の指示で我に返って隊士たちも動き出す。 そうこうしている間にも無情に時間は過ぎるもので。 「げっ! あと6秒しかねェ!」 ほとんど半狂乱の銀時と新八の背後で、神楽の凛とした声が聞こえた。 「銀ちゃん、歯ァくいしばるネ」 ほあちゃアアアアア! と傘をぶん回して、神楽は想像絶する力で銀時を爆弾と共に打ち放った。 「おお、ほんとに容赦ないなあの子」 飛ばされて悲鳴を上げる銀時と、飛ばされていった銀時を見守る新撰組と、万事屋の二人。
数秒の後、上空で大きな爆発音が聞こえ、とりあえず自分たちの安全が確保されたことを知った。 眼下から吹きあがる風に舞い上げられる艶やかな髪もそのままに、早々に屋上に出てきていた桂は下を眺めていた。 「フン、美しい生き方だと? アレのどこが美しいんだか」 桂は過去の銀時の言葉と、現在の銀時の状態を照らし合わせながら馬鹿にするように、どこか自嘲するように呟いた。 「……だが昔の友人が変わらずにいるというのも、悪くないものだな……」 |