「おい、総悟。サボってねェで見回り行ってきやがれ!」
「うるせィや、土方さん。昼寝の邪魔する奴ァ死ね。主に土方死ね」
「主に俺ってなんだコラァ!」
今日も今日とて縁側にごろりと横になって寝入る沖田に注意を呼びかければ、その何倍もの罵声が帰ってくる。
よくもまあこんなにもポンポンと言葉が口をついて出るものだ。
「ったく、人の昼寝がそんなに憎いんですかィ?」
「お前のサボりが憎いんだよ!」
仕方ねェや、とぼやきながら人をおちょくっているとしか思えない柄のアイマスクをずり下げ、
こちらを見た沖田がぴしりと固まった。
「……?」
何やら俺の顔か頭の部分を凝視しているが、特に何かを頭に載せた覚えはない。
いつものように煙草を口にくわえ、いつもの隊服で、縁側に転がっていた沖田を、立って見下ろしていただけだ。
「なんだよ、なんか変なもんでもついてたか?」
「いいやァ。なんもついては、いやせんぜ」
何やらにやりと笑う沖田に、いい予感はしない。
しかし、彼はそのまま、見回りに行ってきやす、と言って立ち去ってしまった。
「…………?」
このとき、良い気はしなかったが特に違和感も何もないので、気にすることでもないだろうと放っておいた。
しかしその後、どの隊士とすれ違っても、皆一様に沖田と同じような反応をする。
「んだってんだ、何かあんならはっきり言いやがれ!」
「ひい! 何でもないっす!」
そして何度、誰に尋ねても同じように何でもない、としか返事が返ってこないのだ。
青筋を立てつつ、いい加減イライラしていると、向こう側から昼間っから例の女の元へと行っていたのだろう、
目元に青あざを作り、顔を腫らした近藤がやってきた。
「なんだ近藤さん、またあの女ンとこ行って来たのかよ。いい加減にしといた方がいいと思うけどな」
「む、トシ……」
「何だよ、近藤さんまで」
「あっ、いや。何でもない。何でもないぞ、トシ!」
「……?」
いつもなら懲りずにでれでれと女の話を延々と話し出すはずが、
今日は皆と同じように俺の髪か頭のあたりに視線を置いて、そのままだ。
そして話しかければ、べりっと音がしそうな程懸命にそこから視線を剥がし、
あたふたとあからさまに何かを隠しながら心持ち早めの足取りで去って行った。
何だと言うのか。今日は皆が皆一様に頭を凝視して固まる。
寝癖かゴミが付いてたんなら教えろよ、と悪態をついてふと縁側から庭へと延びる己の影に目をやった。
「―――っ!てめえかっ!」
「あはは、やっと気付いた」
なんと、その影を見る限り、己の頭の上に人が一人しゃがみ込んでいた。
こんなことが出来るのは、新撰組の中でもただ一人。
近藤さんに付いている忍、だけだ。
「てめえ、いつからだ! いつから人の頭に乗ってやがった!」
「え、部屋で執務してるときから?」
「ほぼ一日の初めからじゃねェか!」
「私の気配ひとつ読めない副長が悪いんですよー」
「ざけんなてめェ!」
キレて斬りかかっても流石は忍、腐っても忍。ひらりひらりと攻撃をかわしていく。
しかも攻撃をかわすたびに高くまとめた長い黒髪が鞭のようにしなり、土方の顔をびしばしと容赦なく打つのだ。
避けながらもみみっちい攻撃を忘れないとは、かなりむかつく。
「てめっ、今日こそは許さねェ!」
「あれえ、今までに許してくれたことってありましたっけー」
「っるせェ!」
そうして今日も今日とて賑やかに誰かを追いかける羽目になる土方だった。