「元親、さま、元親さま、どこ」
体が思うように動かない。体中に回った毒のせいもあるだろうが、何より傷を負い過ぎ、血を流し過ぎた。
くらくらと回転しながら落下しているような感覚に見舞われながらも、なんとか歩くことはできているようだ。
さらに耳に違和感があることから、恐らく耳が潰れてしまっているのだろうと予想が付いた。
「元親さま、どこに」
「……!」
「ご無事、でしたか」
安堵が急に押し寄せたせいで倒れそうになる体を、元親さまが急いで支えて下さった。
ああ、駄目です。今の私はいつも以上に不浄なのです。触れてはなりません。
そう言いたくとも、抱きかかえられるようにして支えてもらうのが、
とても心地よくて、ついもう少し、という思いから不謹慎にも何も言いだせなかった。
「お前、何やってんだ! 俺がどれだけ心配したと……。
いや、今はそんなことはいい! 早く治療しねぇとまずい。
おい、眠るんじゃねぇぞ! どんなに眠くても気を確かに持っとけ!」
「でも元親さま、もう、私、」
「許さねえ! 気を失うことは絶対に許さねえからな!」
「もう私、助からないです」
「うるせえっつてんだ! 許さねえからな、俺を置いて先に死ぬなっ」
「そんな、無茶を……言わないで下さいよ」
私の為なんかに心を痛めてくれているか、元親さまの声は泣いているかのように震えていた。
でも、ね、元親さま。
「……幸せ、なんです」
「何がだ! なんで、どうやって来たんだ。こうなると思って後陣に組ませたはずなのに……。
どうして俺の前に飛び出したりした! どうして庇ったりした!」
「おかしなことを、言います……私は、あなたの、影ではないですか」
「違う! 俺の忍であって、影なんかじゃねえだろ、おまえは!」
どちらにしろ、同じことだ。私は元親さまの影であり、忍。
そして、もうその任に就くことはできないのだから。
「心残り、と言えば……もう、お傍にいられないこと、でしょうか」
「ふざけんじゃねえ! おまえはこれからもずっと横にいんだろうが!」
「だって、もう、あなたをお守りするための、腕も、足もない」
元親さまに抱えられて運ばれているというのに、右肩から先が揺れる感覚もなければ、
腕という存在を認識することもできない。
腕は敵から受けた攻撃で使えなくなり、そのうえ毒までもらってしまった時点で自ら切り落とした。
放置して全身に毒がまわってしまえば手遅れになってしまうし、
使えない腕をぶら下げたままでは動くときに足手まといになってしまう。
腕を落とすことについては、なんら未練はなかった。
足は元親さまの前に飛び出した時に敵の仕掛けていた地雷を誤って踏んでしまったのだ。
近くにいた元親さまは私が突き飛ばしたのでなんとか事なきを得たものの、
逃げそびれた私はそのまま左足を膝下から吹っ飛ばされてしまった。
このことだって、仕掛けられたものに気がつけず、あまつさえ元親さまを危険にさらしてしまった私の落ち度である。
「そんなの構やしねえ、ずっと傍にいるっつったろうが。
主君との約束なら守れ、こんなところで死ぬなんざ許さねえ!」
「でも、もう、」
「!」
きっと、元親さまは私の怪我のことを、自分の責だと考えているに違いない。
しかしそれは違うのです。元親さまは何も悪くない。悪いのは全てこの私なのです。
だから、そんなふうに痛そうな顔を、しないでくださいよ。