今日は春雨の総会だか何だかで、普段見ない人たちが廊下をうろうろしている。

そしてこの戦艦も、いつも私が生活してるものと違って広いし綺麗だしなんだか落ち着かない。

それに加えて、客間のような部屋に一人でいるのも落ち着かない。

 

 

一応神威団長の下で無理やり働かされてるとはいえ、ほとんど非戦闘員に近い。

それなのに何故か、総会場所に連れて来られてしまった。

そして連れて来るなり部屋で待機を命じられ、現在に至る。

 

 

到着してから神威団長にも阿伏兎にも「絶対部屋から出るな」とものすごい形相で言われた。

あ、すごい顔してたのは神威団長だけか。

 

 

 

しかし暇だ。

部屋待機を命じるくらいなら連れてこないでいただきたい。

 

せっかくなら観光…っていうより探検かな。そういうの、してみたいのに。

そりゃあ確かに天人がうろうろしてる中を一人で歩き回るのはちょっと怖いけど、とにかく暇だ。

 

 

 

そのまま部屋で待っているうちに結構な時間が過ぎた。

さすがにそろそろ終わりだろうと思って、ほんの少しだけ扉を開けてみた。

 

スライド式の扉をゆっくり開けてふと視線を上げる。

 

「………」

「………」

 

 

なんか、いた。

 

 

「あ、えと、失礼しましたー」

軽く会釈して再び扉を閉めようとしたが、それより先に目の前にいた天人の手が扉を全開にした。

うわああ、押し売りセールスもびっくりの扉技!

 

 

「お前地球人だな…?何故こんなところにいる!?」

噛み付きそうな勢いで、パッと見た感じ恐竜のような天人さんは部屋に一歩踏み込んできた。

「ひえええ、あ、怪しいものじゃないです!ええと、だっ、第七師団団員…です…!」

 

ああ、それにしてもこの天人さん背が高い…!3メートルは超えてるんじゃないの…!?

ていうか団長でも阿伏兎でもいいから早く戻ってこい。マジで早く戻って来い。

 

 

 

「第七っていうと神威団長のとこか。そういや地球人に構ってるとかなんとか聞いていたが…」

呟きながら天人さんはじろじろと私を見下ろす。

「まさか女だったとはなァ」

「あっ、ですよねー!私もなんでこんなとこにいるのやら…は、早く帰りたいんですけどねー」

 

食われそうだ。

なんかもう相手にしてるのが天人とはいえ見た目恐竜だもの!食われそう!

早く戻ってきて二人ともォォォ!

 

 

「帰る?なんだ、無理やり連れて来られたのか」

気の毒に、みたいな視線で私を見て自己完結して頷いた天人さんは、突然その目をスッと細める。

 

 

「…なあ、俺の師団に入らないか?」

ニイッと口角を吊り上げて笑いながら天人さんは近づいてくる。

は?と声が出そうになった私は大股で一歩ずつ後ずさりながらブンブンと顔を横に振って遠慮の言葉を述べる。

いや、ほんと、どの師団でも御免です。

 

 

 

ついに背中に壁が当たった。

くそっ、バカ!神威団長のバカ!私が食われたら化けて出てやる!

 

歯を食いしばって出来る限り壁に張り付いている私に、天人さんの手が腕に向かって伸びてくる。

 

 

 

「ねえ、その子うちの団員だからさ。手、出さないでくれるかな」

 

「あ?」

くるりと声がした方へ天人さんが顔を向けた瞬間。

その顔面に、何かが物凄い勢いでめり込んだ。

 

ドゴオオッという轟音と共に天人さんは私の横の壁を突き破って頭を後頭部から突っ込むように倒れた。

ぽかんとして立ちこめる埃を見ていると、その中からやけに明るいピンク色が見えた。

 

 

「ただいま、

倒れた天人さんの上からぴょんと降りて私の前に華麗に着地したのは、神威団長、だった。

 

 

「…が、顔面に向かって飛び蹴りは酷いんじゃないですかね」

「開口一番がそれ?」

あははと神威団長はおかしそうに笑うが、私はほとんど放心状態だ。

 

 

「もうちょっと待ってたら何か反撃するかなーと思って見てたんだけど、なんか体が勝手に動いちゃって」

「反撃って…ちょ、今なんて言いました?見てた?見てたんですか!?いつから!?」

飛んでいた心を呼び戻し、神威団長に向かって叫ぶように尋ねる。

 

 

「ん?いつだろ。が後ずさりだした頃からかな?」

どこにいやがったんだこのアホ毛団長。見てないで助けろバカ!

 

 

そう言って罵ってやりたかったのに、喉の奥が張り付いたように声が出なかった。

かくんと足から力が抜けて、床にへたり込む。

 

「…ばか、神威団長のばか。た、食べられちゃうんじゃないかって…思って…っ」

怖かった。

私の目の前でにこにこしてる人も十分怖い人だけど、もっと、怖かった。

 

 

「そっか」

いつもと変わらない声のトーンで神威団長は呟き、私の前にしゃがみ込んで私の体に腕を回す。

背中を擦るとかそんな器用なことは一切ないものの抱きしめられてる温もりが今はすごく安心できた。

ぽすりと神威団長の肩に顔をうずめて、そっと背中に手を回す。

 

 

 

「ま、ゴハンも食べたし。さっさと帰ろうか」

「はい…」

ん?ゴハン?

 

「あの、今日って総会みたいなものがあるんじゃ…?」

神威団長の肩から顔を離して尋ねる。

 

 

「うん、それなら30分くらい前に終わったよ。そしたらお腹減っちゃって」

「っていうことは神威団長がご飯食べてなかったら私は何事もなく帰れたんじゃないですか!」

私があんなに怖い思いをしていたというのに、この人は暢気にご飯食べてたというのか。

 

「あーもう知らない!神威団長のバカ!」

ばっと神威団長の腕から離れて立ち上がると、一緒に神威団長も立ち上がった。

 

 

 

「で。、何これ」

「……」

神威団長が指差したのは、自身の服の袖。

私がほんの少し掴んでいるところ。

 

 

「…だって、一人で行ってまたあんな事があったら嫌ですし」

「ふーん」

聞いておいて物凄く興味なさそうに返事をした神威団長は少し悩むような声を出し、一人でこくんと頷いた。

 

「それより、こっちの方がいいと思うんだけど」

そう言って神威団長は私の手を袖から離し、今度はぎゅっと手を握られた。

なんというか毎回この人に手を握られると、握りつぶされるんじゃないかと心配してしまう。

今のところ、そうなったことは無いのだけれど。

 

 

「え、あのっ」

「そろそろ本当に急がないと阿伏兎に怒られそうだから、行くよ」

ぐいっと引っ張られて躓くようにして足を踏み出す。

神威団長の半歩後ろを歩きながら私はそっと団長を見上げる。

 

 

「…あの、さっきはありがとうございました」

「別に助けたとかそういうつもりじゃないよ。ただ、気が付いたら足が出ただけ」

すたすたと歩く歩調は変わらないまま、神威団長はそう言い放つ。

 

 

「それでも、いいんです。言わないと気が済まないんです」

ちらりとも振り返らない神威団長の手をぎゅっと握り返して、少しだけ笑う。

 

「ありがとうございました、神威団長」

今度はちらりと私の顔を見て、また前を向き直す。

 

 

「他所に行かせる気は無いからね」

「え?」

何の話だろうと思って首を傾げる。

 

は俺の団から逃がさないから」

逃がさない、って他に言い方は無かったのかとつっこみたくなった。

でも、不思議とそれを嬉しいと感じている自分がいて、小さく「…はい」と頷いた。

 

 

 

にはこれからも俺の書類仕事やってもらわなくちゃいけないしね」

「すいません、早急に地球に帰してください」

やっと振り返った神威団長の顔は、憎たらしいまでの笑顔だった。

 

 

 

 

 

勧誘厳禁




(「ところで神威団長、すれ違うひとがみんな脅えてるんですけど」「あはは、なんでだろうね?」「…なんででしょうね」)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

ゆきずりさんへ捧ぐ、相互リンク感謝夢でございます!

風村のサイトで7万打感謝の時に書いた設定での神威夢ですが、単品でも読める仕上がりになっております。

っていうか、ただの不器用で気づかないうちに嫉妬心が発動してる神威夢です。

ちなみにヒロインを連れて来たのは、皆への牽制です。うちの団員に手出さないでよ、っていう。

それではゆきずりさん、これからもどうぞよろしくお願いいたします!

2011/04/02