これから先も。







「はい」



名を呼べば愛しい者の声が答える。それはなんと幸せなことか。



「元親さま、こんな夜更けに海辺に出るなんて。風邪をひきますよ」

「俺ぁ海の男だ。こんくれぇじゃかぜなんかひかねぇよ」



一度は失ってしまうと覚悟を決めた命。
己が不甲斐ないばかりに、この手のひらから零れ落としてしまうのだ、と。
そう考えていた日も、確かにあった。



が俺にとって大切な、一番の人間だということは分かっていた。
しかし、それを失いかけて初めて実感したのだ。



、ありがとよ」

「なんです、いきなり」

「いや、傍にいてくれて……あんとき生きてくれて、本当にありがとうってな」

「……当り前です」



照れたようにうつむいたをそっと抱き寄せ、頬にキスを落とす。

あの時失った左足は、俺が作った義足で補っており、彼女は今も凛として自分で立派に立っている。
しかし同じく失ってしまった右腕は義手をつけても動かせるわけもなく、失ったままに服の袖がひらひらと舞っている。

あんな大怪我で生き残れたのは奇跡にも等しい、と城の医師が驚いた顔で言っていたのを、今でも鮮明に思い出せる。



「私は、あなたに傍にいると約束しました。その約束を違えることはできませんから」



だから、私はどんなになっても生きると決めたのです。



そう言って笑った彼女の姿に、情けなくも泣きそうになってしまった。
俺は、こんな尊いものを失くしかけていたのだ。



「もう以前のように私の腕でお守りすることはできないけれど、
今度は誰よりもお傍で、あなたの妻として、一生をかけて支えます」

「ほんと、お前みたいな嫁さんがいて、俺ぁ幸せもんだな」

「ありがたいお言葉です」



今度こそは、傷つけることのないようにと優しい目をした鬼は、傍で己を支える愛しいものをきゅっと抱きしめた。