「トリックオアトリート、!」 「てめーは人ン家に上がって一言目がそれか!」 私が一人悠々とソファに深く座りこんで読書をしていると、突然どこからともなく神威が現れた。 私がそれを指摘すると、神威はコテンと首をかしげた。 「上がってないよ? 侵入だよ」 「なお悪い!」 現れただけならまだしも、言うに事欠いてこの一言。 しかも本人に悪気が無ければ、もちろん反省もない。もうどうしようもない。 「ねえってば、俺、お腹すいちゃったヨ」 「前から何度も言ってるようですけど、あんたを満足させられるだけの量のご飯も、ましてやご飯も うちにはないから! 無理! これっぽっちも!」 「俺だってそんなにはねだってないよ」 「……どーだか」(ぼそっ) とっても小さい声で言ったはずなのに、どうにも神威には声が届いてしまったようだった。 そりゃそうだ、今日は雨が降っているわけでもなし、そんな中でテレビもラジオもつけず静かに読書 を楽しんでいたのだ。周りは静寂。呟きの一つも逃げる隙はない。 「からもらえるんなら、ちょっとだって構わないんだ」 「甘ひ言葉とはふひゅんひたこのひうひ」(甘い言葉とは矛盾したこの仕打ち) 「ははっ、なんて言ってるのかわかんないよ」 至極涼しい顔をして私の頬を軽く引っ張っていますよ的な空気を醸し出しているが、この男。 自分の怪力を分かっているのかいないのか、恐らくは手加減しているのであろうが、痛いのがわかる 程度に強く引っ張っている。 なんて野郎だ。 「はいっ」 「ん!? ん、あ。甘い」 ひたすら引っ張り続け満足したのか、手を離した。 と、同時に私の口の中に何かを放り込んでにっこりと笑う。 どうせロクなものじゃないと思っていたが、反して口の中は甘い。どうやらチョコレートのようだ。 「じゃ、もう帰ろうかな」 「え。もう帰るの?」 「うん。じゃあね、ハッピーハロウィーン、」 来た時と同じく唐突に帰って行った神威に呆然とする。 本当に何しに来たあいつは。 なぜか火照る頬を持て余しながら、もう読書には戻れないな、と溜め息をついた。 |