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そんなにお菓子がほしかったんですか




「トリックオアトリート」 「はい、どーぞ三成。やったね、一番乗りだよ!」 「一番だと……?」 朝、通学路でばったりと会った次の瞬間に三成は、挨拶もすっ飛ばして そうのたまった。なんてジャイアン。 そんな彼に嫌な顔一つせずチョコを渡す私はしずかちゃん並みに女神だ。嘘です。 しかし今日の私はテンションが高い。なんたってお菓子を渡し、渡される日なのだ。 もちろんバレンタインデーではないのだから、ホワイトデーまで待たずとも交換と いう素晴らしい形で沢山の種類のお菓子が私の手元に集まるという算段だ。抜かりはない。 そんな感じでテンションの高い私にチョコを渡された相手は石田三成。 今日も今日とて顔色の悪いご近所さんは、鋭く冷たい外見からは想像できないが(したく ないが)、実はとても甘党であったりする。現にチョコを渡した時にはほんのり頬を染め ながら(染めながら!)彼にしては嬉しそうにして受け取っていたのだ。 しかし、三成はそのすぐ後の私の言葉を聞いてなぜか機嫌は急降下。 ぐっと眉間にしわを寄せ、口角はきゅうと引き結ばれてやや下がり気味だ。 「なに、三成。チョコに何か不備でも?」 「、貴様……まさかその手に提げた大きな紙袋の中身は全てチョコなのか」 「いや? だって今日はハロウィーンだもん、結構な種類のお菓子が……って、ああ!」 嬉々として手に持った袋を掲げて見せながら説明していると、手に持っていた袋を掠め 取られた。 「ちょっと何すんの! 返せっ! くっそうこのやろうっ! ちょっと身長がっ! あるくらいでっ!」 「ふん、全く届いていないな」 「にゃーろう!」 掠め取られた上、高身長な三成が袋を何かの荷物のように片手で低身長の私の届かない 領域から降ろしてくれないのだ。私がいくらぴょんぴょんと飛び跳ねようが、悔しいかな、 指先さえかすりもしない。 「ほんとに返してってば!」 「何故だ。そうまでして渡したい奴でもいると言うのか」 「当然! 家康とは交換の約束してるし、幸村にはあげるって言っちゃってるし、 そのお礼に佐助のお手製のお菓子を約束してもらったんだし、」 「おのれ真田アアアァァァッ!」 「幸村なの!?」 いつもの如く「家康」なのかと思えば今日はなぜか「幸村」と叫び、紙袋を持って いた手をスッと降ろしたので、やっと返してくれる気になったのかと思った。が。 「あああ! なっ……何して……!」 「いっそ、他の男に贈られる物なら私が! 私が全て食らってやる!」 包んでいた紙を器用にも片手でバリバリと剥ぎり、そのまま数種類のお菓子を口の中へと放り込んだ。 もぐもぐ、しゃくしゃく、ぱりぱり、と他の人たちに渡そうと思っていたお菓子たちが三成の 口の中へと消えていく。その速度の速いこと。 「うわああ、ありえない! 鶴ちゃんやみんなの分もあったのに!」 「知ったことか! 他も寄こせ。貴様の全てを私に寄こせ!」 「ちくしょう、どうして今ちょっとでもときめいたし自分んんん!」 紙袋に大量に入れていたお菓子ももうあと少しで底を尽きると言うところまで来たとき、 騒ぎながら登校していたという理由も含め、かなり目立ちながら学校についた。 「、本当にこれで最後か」 「そうだよこんちくしょう! 信じられない。あんだけ……50個近くのお菓子たちが この登校時間だけで全滅だなんて……一体どんな胃をしてんだ……」 「本当だな? その言葉、偽ってはいないな」 「偽ってたとして、まだ食うつもりか三成」 「当然。貴様が全てを差し出すまで、全てを食らい尽くす」 「ほんと冗談に聞こえないから……」 見る間に三成の腹に収められてしまったお菓子たちの残骸を見て思う。 手持ちが全て平らげられてしまったのだ。今日は交換どころではなくなってしまった。 きっと私ばかりが貰ってしまうことになってしまうのだ。 ああ、今度みんなに何かお詫びしなきゃな……。 皆に謝りながらお菓子を貰うという非常に肩身の狭い思いをする羽目になるのは、もう少し後のことでした。