ひらひらと風に揺れる黒い裾を尻目に、これまた黒い手袋をつけた手を伸ばしてチャイムを鳴らす。 ピンポーン、という音と共にすぐに中から扉が開かれた。 「トリックオアトリート!」 「もうすぐ期末テストだと言うに、余裕なものだな、」 開いてすぐ、相手の顔もまとに見ないうちに叫ぶと、中から出てきた元就はとても冷たい一瞥をくれた。 確かに、確かに期末テストは来週に迫っているけれども! 「だからこそ元就んちに来たんでしょ!」 「……その格好でか」 「ちゃんと着替えもあるからー」 勉強をする気などないだろう、という元就の目は容赦の欠片もなく私の今の衣装に向いている。 ただ今私は箒(ガサガサの竹箒!)を持った、純和風(?)な魔女に仮装しているのだ。 西洋の言い伝えにのっとり、膝下までの長く黒い外套を纏い、三角帽もかぶりたかったのだが、 そこまでは流石に家に持ち合わせが無く外套のフードで代用している。三角も何もあったもんじゃない。 もちろん手にはお菓子の大量に入ったバスケットを持っている。 中にはこの後寄るつもりでいる友人の分も入っている。 「改めまして、トリックオア、トリート!」 「勉強せぬか」 あのあと冷たい容貌のままとりあえず上がれ、と言ってくれた元就の言葉に甘え、玄関を抜けて そのまま元就の部屋へと通された。なんでも、今日は両親が家にいるそうで居間は使えず。 隣接するキッチンも騒ぐと迷惑になるため却下された。 そういった流れで元就の部屋へとついて、すぐに着替えろ、と廊下に締め出されので大人しく 着替えてやっと部屋の中に入れてもらえた矢先の会話だ。 「だって、今日はハロウィンだよ。お菓子ほしいよ」 「我に物をねだるか」 「ええー……」 「……」 「……」 「……、トリックオアトリート」 「ちょ、え、私にはねだるの?」 「我はそなたに教えを説いておる故」 「そーでしたね」 私からのおねだりは早々に却下され、まあそうだろうなと予想済みだったわけなので静かに 勉強の準備に取り掛かっていると、まさかのまさか、元就からのおねだりを受けたのだ。 渋々ではあれど、バスケットの中から一つキャンディをつまんで元就に手渡す。 すると怪訝そうにそのキャンディを見、バスケットの中身を見、そして私の顔を見た。 「トリックオアトリート」 「二度目!?」 「一度のみという決まりでもあったのか」 「いや、ないと思うけど……」 「なら良いではないか」 「まだ寄ってないとこもあるんだから、」 「粗方学校で配っておったではないか。どうせあと二、三件だろう」 「そうだけど」 私の答えを聞いて満足そうににやりと笑った元就の顔は、きっと忘れないだろう。 なんせ、あの後バスケットの中身が残り三個になるまで同じ問答を続けさせられたのだから。 |