飛び立つ小鳥






縁側で差し込む日差しを眺める。ああ、暖かい。これが元就さまの愛する日輪。
することもなく暇で、ついついそのまま横になりたい衝動にかられるが、以前それで侍女に酷く叱られた
のでもうしない。しばらくは。


ふと、自分の周りを見渡して思う。
辺りには、灯篭などの庭にある置物から、周りを囲む美しく整えられた垣根。
これでは、こんなのまるで。


「これでは、私は籠の鳥になった気分だわ」


ハッとして慌てて口元を手で覆う。誰かに聞かれていたらまた面倒なことになりそうだ。


「……はー……疲れているのかな」


溜め息をつくと、気分まで落ち込んで言ってしまいそうな気がした。
そして、今自分はとても外に出たいのだと自覚した。


「なら、出ればいいんだ。そうだ、出よう!」





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「あ、こんなとこにも」


着物の裾を払ってしゃがみ、足元に自生していた野草を手に摘む。
もともと田舎育ち(山育ちとも言う)で家自体小さかったため、近くにある山へはたびたび訪れていた。
緑豊富な瀬戸内の山で山菜を摘み、時には港へ出て漁師の真似事もやった。

こんな育ちの私が毛利家に嫁ぐなんて、一体あの時あの場にいた誰が想像できただろうか。


「ここにも茸が」


ここは故郷の山ではないが、まるで隅から隅まで知っているようにどこに何があるのか把握できた。
それと同時に、やはり自分は野山が似合う野性児であることもまた理解した。

元就との結婚は向こうからの申し入れであり、未だに側室さえ取っていないが、全くもって自分のよう
なのの一体どこが良いのか見当もつかなかった。
こんな、隙あらば城を抜け出し、野山を駆け、自然と戯れることの方が楽しいと感じてしまう私なんかが。


「……だめだな、せっかく気晴らしに出てきたのに。考え事しちゃう」


それほどに元就のことを気にしているということなのだろうが。それもまだ実感が湧かないでいた。


「!」


そんなとき名を呼んだのは間違いようもない元就その人で。不覚にも胸がきゅんと高鳴ってしまった。


「元就さま、なぜこのような所に……」

「それはそなたがここに居たからであろう」


駆け寄って来て私の手を取り引き寄せた後、私の土やら何やらで汚れているのを何も気にせず、しばらくの
間は「怪我はないか」「不届き者には鉢合わせなかったか」などの質問攻めにされ、手の汚れを綺麗な手で
丁寧に拭われた。


「元就さまの手が汚れてしまいます」

「構わぬ。そなたの気が晴れたと思えば、何のことはない」


何もかもを見透かしているような瞳でこちらを見た元就さまに、降伏の意味を込めて目を閉じた。
きっと、私が囲われる生活に辟易としていたことも全て知っていたに違いない。でなければ、戦闘のせの字
も知らない女の身である私が、毛利家の忍の目を盗んで外へ出ていくことなどできなかっただろうから。


「次からは我に一言言え。我はそなたを籠に閉じ込めようなど、するつもりはない」

「……はい。ごめんなさい」


そこで一旦言葉を切った元就さまは、そっと私の額に唇を落とす。



「ただ飛び立つたび、我の元に帰ってくればそれで良い」





私は恐らく、この先外へ出たいと思うことはもうない。